永遠亭の庭に出て、月を眺めていた。
そうなんとなくなんだけれど。暇を持て余してるから、と言えばそうなのかもしれない。
でも本当になんとなく。月が綺麗だった、ただそれだけの理由で庭に出て見たのだ。
寒い冬の夜だというのに。自分でもバカなことをしているなとは思うけれど、
澄んだ空に浮かぶ大きな月を外にでて見ずには居られなかった。
そうやってぼうっとして月を見上げていると、ふと私に誰かが声をかけた。



「、そんなところで何をしているの」



輝夜だった。月のお姫様。といっても、こちらに逃げてきたけれど。
一時は大きな騒動を起こしてここ幻想郷の住人たちに迷惑をかけてしまったが、
今はそんな彼女たちとも交流をし、平和な毎日を過ごしている。
私は別に彼女に付いて月から逃げてきたわけではない。
元から幻想郷に住んでいた者だ。一連の事件を見て輝夜のことが気になって、声をかけてみただけ。
彼女も私のことを気に入ってくれたらしく、こうして何度か彼女のすみかに遊びに来ているのだった。
いつもはあまり遅くまではいないのだが、つい輝夜と話し込んでしまい夜になってしまったので
永琳さんが一緒に、と言ってくれたのでせっかくなので御馳走になることになった。




「あ、輝夜。そっちこそどうしたの?」
「ご飯だからあなたを呼んできてと頼まれたのよ」
「そうなの?輝夜、ありがとう」
「別にこれぐらいでお礼なんていらないわ」
「まぁそんなこと言わないでよ」



もうできたのか。準備がよかったのだろうか。
永琳さんの作るご飯だ、輝夜にも聞いたけど相当おいしいらしいから期待がふくまる。
自分自身、とても料理が好きというわけではないが
おいしいものを食べれると聞いて喜ばないものはいないと思う。
辺りに漂う煮つけの香りが鼻をくすぐる。



「それより私が少し目を離した隙にこんな寒い外に出るなんて。どういう趣味をしているのかしらね」
「……輝夜は」



ふと、月を見て思った。
彼女は月を見て懐かしいとは思わないのかと。



「何?」
「月に帰りたいとか、思ったことってないの?」
「ないわね」
「どうして」
「私は月から逃げてきたのよ?バカ言わないでちょうだい」
「懐かしいとか、さみしいとか思わないの?」
「そんな気持ちもわかないほど、あの場所はもう恋しくないのよ」
「輝夜は強いんだね」
「私はいつでも強くなきゃいけないものなのよ」


本当に、強いなと思った。彼女は力があるだけではないのだ。
心もとても強いのだった。私にはどうもかないそうにない。
私は心は折れやすい。結構弱いものだから。
輝夜が傍にいたら私も少しは強くなれるだろうかと考えてみた。

(輝夜が傍に、ねぇ)

普通に考えたらおかしい考えなんだろう。
でもここは普通がおかしいことだからどうってことないかもしれない。
現にそういう人物は何人かいるのだし。
私自身が、そういうものになるとは思わなかったけど。
輝夜のことは好きだ。そう、普通に友達として好きだった。
それなのに、今は少し違う。
彼女がいるなら私も少しは強くなれるかもしれない、
彼女がいないと少しさみしいかもしれない。


輝夜が、いるなら……



「ふーん、大変なのね。いつもあんまりにもだらだらしてるから弱いのかと思ってたよ」
「までそんなこと言って!まったく誰が吹き込んだのかしらね」
「ふふ、輝夜の行動を見てたら誰だってそう思うよ」
「なっ、失礼ね!私だってやればできるのよ」
「じゃあ今度私の相手してよ。新しいスペルカード試してみたいの」
「いいわよ、存分に私を楽しませてね?」
「勿論」



あなたが私と同じ気持ちなのかはわからないけれど。
それでもきっと伝えたいと思う時がくると思うし。これもなんとなく、だけれど。



「ねぇ輝夜。もう1つ聞かせて?」
「何なの。今日は質問が多いのね」
「もし私が輝夜に何か伝えたいことがある。
でもそれが今すぐには言えないとしたら輝夜はいつまで待ってくれる?」
「そうね、ちっとも待てないわね」
「どういう意味?」
「きっとその質問は私が考えていることと同じことだと思うから、待てないわね」
「輝夜?」
「さぁご飯よ!皆を待たせすぎたわね。ほら早く行かないと永琳に叱られてしまうわ」
「ちょっと、輝夜ってばはぐらかさないで!」
「何のことかしらね、ほらおいていくわよ!」



……どうやら輝夜のほうが私のもっとずっと前から考えていたらしい。
輝夜のほうが1枚上手だったということだ。












縮まる距離




20081125(さて、なんて叩かれそうなものを書いたんだろうか。でも書きやすかった。)